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- 2019.04.10 Wednesday
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こんにちは。
星村佳穂です。
3月に入り、日差しもずいぶんと柔らかく暖かなものになってまいりましたね。
今回のテーマは「えいようのある話」。
春という言葉に形容詞をつけるとしたら、私は「儚い」という言葉が思い浮かびます。
すぐに終わってしまう、もろくて、短い季節だと‥‥。
例えば「春の夜の夢」という言葉があります。
「短いこと、はかないことのたとえにいう(大辞林 第三版)」。
春の夜が他の季節に比べて短いわけではないのに(むしろ夏の方が夜は短いのに)、なぜか春の夜に見る夢だけが、とりわけて短いこと、儚いことを表現しているのは不思議だなと思います。
春の夜の夢を儚いと思ったのは、ずいぶん昔からのようで、このフレーズが使われた和歌などが残っています。
百人一首にも入っていますよ。
「春の夜の 夢ばかりなる 手枕(たまくら)に かひなく立たむ 名こそ惜しけれ」
(春の夜の儚い夢のようにほんの短いの間でもあなたに腕枕をしてもらったら、つまらない噂が立ちますから。 それで評判を落としたくないの‥‥!)
作者は周防内侍(すおうのないし)という平安時代の女性です。
この歌の背景をちょっと申しますと、ある春の夜のこと。周防内侍がお仕えの最中に眠たくなって「枕が欲しい」と呟いたそう。
すると御簾の向こうから男性の腕がにゅっと出てきて「これを枕に」と言ったんだそうです。そこで、男性への返事として読まれたのが、この歌です。
歌には技巧も凝らしてあって、面白くて、その場ですっと読めるというのはすごいなと思います。
さて、もう一つ春の夜の儚さを詠んだ歌をご紹介しましょう。
「春の夜の 夢の浮橋 とだえして 峰にわかるる 横雲の空」
(春の夜の儚い夢が覚めてしまいました。峰からは横雲が離れていこうとしています。)
何とはなしに甘く、切ない雰囲気の歌ですよね。
作者は百人一首を選んだこともある、藤原定家。先ほどの周防内侍より100年以上下った時代に生まれた歌人です。
この歌は百人一首には入っていませんが、定家が詠んだ別の歌が選ばれています。
さて、この歌でも春の夜の夢は儚いものの例えになっていますね。
確実に平安時代以降には、春の夜の夢が儚いものだという共通認識があったのでしょうね。
そうして現代に生きる私にまで伝わっている。
不思議ですねえ。
いつか誰かがふと思いついたことが、どうやってか広く共有され、そして時代を経て伝わっている。
そしてまた私という人間が今あなたに、このブログを通して伝えている‥。
春の儚さは、これから何年も何百年、もしかしたら何千年と伝わり、しぶとく深く人の心に残り続けることでしょう。
星村佳穂